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東京高等裁判所 昭和53年(ネ)1012号 判決

控訴人 中島定吉

右訴訟代理人弁護士 川勝勝則

被控訴人 金谷茂

被控訴人 佐藤彌八

右訴訟代理人弁護士 熊川次男

同 戸所仁治

主文

一  本件控訴を棄却する。(ただし、原判決主文第一項中「金五〇万七五〇〇円」とあるのは、訴の変更により「金七五〇〇円」と変更される。)

二  控訴人の当審において拡張された請求をいずれも棄却する。

三  当審訴訟費用はすべて控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  被控訴人らは控訴人に対し、各自一五〇〇万円及びこれに対する昭和四六年二月二三日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。(当審において請求を拡張し、かつ一部減縮)

2  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  被控訴人ら

「本件控訴並びに当審において拡張された控訴人の請求を棄却する。」

旨の判決

第二当事者の主張

一  控訴人(当審において慰藉料の請求を撤回し、その余の請求を次のとおり拡張)

1  控訴人は、群馬県群馬郡吉岡村大字大久保十二、一九一七番、山林九七一平方メートル(以下「本件土地」という。なお、控訴人の主張中、この地積を「九七一・七〇平方メートル」とする部分は、その成立に争いがない甲第一二号証の記載に照らし誤記と認める。)の所有者である。

2  本件土地内には、紀元六世紀末に築造された前方後円型の古墳が存在し、この古墳は、東南に向い傾斜した地形を利用し、そこに横穴式の石室を設け、これに覆土したものであって、かつて発掘されたことはなかったものであるが、被控訴人らは共同して、昭和四六年二月二三日ほしいままに右石室が存在した本件土地のうちの南側二三一・四〇平方メートルをブルドーザーを用いて掘削し、前記の石室を跡形のない程に破壊し、右の古墳を損壊した。

3  よって、被控訴人らは控訴人に対し、共同不法行為者として右の古墳の損壊によって控訴人が蒙った損害を賠償すべき義務があるところ、右古墳を復原するためには、別紙記載のとおり合計一八五六万円の費用を要するのであって、控訴人は、本件の不法行為によって、これと同額の損害を蒙ったというべきであるから、被控訴人らに対し、このうちの一五〇〇万円及びこれに対する右不法行為日の昭和四六年二月二三日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

二  被控訴人金谷(請求の原因に対する認否)

1項は認める。

2項については、被控訴人佐藤が控訴人の主張する本件土地部分を掘削した事実は認めるが、その余の事実は否認する。

3項の事実は知らない。

三  被控訴人佐藤(請求の原因に対する認否)

1項の事実は知らない。

2項については、被控訴人佐藤が、ほぼ控訴人主張部分に該当する本件土地部分を掘削したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3項の事実は知らない。

四  被控訴人ら(抗弁)

仮に控訴人が被控訴人らに対し、その主張にかかる損害賠償請求権を取得したとしても、控訴人は、昭和四六年二月二六日に長男中島滋をして本件土地を見分させ、同日その結果の報告を受けたのであって、その際右の損害及び加害者を知ったというべきであるから、その後三年を経過した昭和四九年二月二六日には、前記損害賠償請求権は、時効によって消滅した。よって、この時効を援用する。

五  控訴人(抗弁に対する認否)

被控訴人らの主張は、争う。

第三証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、本件土地につき控訴人を所有者とする所有権保存登記が経由されていることが認められ、他に反証がないから、控訴人を本件土地の所有者(但し、この事実は、控訴人と被控訴人金谷間においては争いがない。)と推認すべきであり、被控訴人佐藤が控訴人の主張する本件土地部分を掘削したことは、控訴人と被控訴人金谷間において争いがなく、被控訴人佐藤がほぼ控訴人主張部分に該当する本件土地部分を掘削したことは右当事者間においても争いがない。そして、右の掘削部分とこれに隣接する被控訴人金谷所有の同所一九一六番二の山林に及ぶ丘陵地帯に古墳が存在し、この古墳を昭和一〇年の調査により愛宕山古墳とされた前方後円型の古墳に該当するものと推認すべきことは、原判決がその理由中において説示するとおりである(原判決一三枚目裏二行目から同一六枚目表五行目まで。但し、同一五枚目表四行目から五行目にかけて「成立を認め得る」とあるのを「控訴人主張の写真と認める」と改め、同七行目の「一ないし五、」の次に「右本人尋問の結果によって成立を認める」を、同行の「第三九号証、」の次に「同本人尋問の結果によって控訴人主張の写真と認める」を、同行の「第四九号証、」の次に「その成立に争いがない第五七号証、」を、それぞれ加え、その裏七行目から八行目にかけて「明らかに古墳の横穴式石室に使用したと思われる石材(天井石と側壁石)とみられること」とあるのを「古墳内部の石室に使用されていたものと推定されること」と改める。)。

二  ところで控訴人は、右の古墳が被控訴人らによって損壊されたとし、別紙「主体部(横穴式石室)復原図」及び「古丘復原設計図」のとおり復原されるべきものであるとして本訴請求をしているのであるが、本件においては、損壊される以前の古墳(古丘)がいかなる規模、構造のものであるかを示す実測図等が提出されていないことはもとより、右の規模、構造を確認することのできる他の証拠も提出されていないし、右の古墳内の石室にいたっては、控訴人が原審以来自陳しているように(原判決四枚目表二行目以下及び《証拠省略》参照)、この古墳は、被控訴人らが損壊したとされる以前においては、一度も発掘されたことがないのであるから、それが控訴人の主張するような規模の横穴式石室であったかどうかすら知り得ないのは当然であり、《証拠省略》を総合すれば、前記の「主体部(横穴式石室)復原図」及び「古丘復原設計図」も、他に現存している古墳及び歴史資料から推測すれば、控訴人の主張する古墳もかくあった筈であるという程度の推定結果を記載した以上のものではないことが明らかなのであって、他の本件の全証拠を検討して見ても、右の古墳の原形もしくは掘削直前の形態を確認するに足る資料を見出すことはできないし、またこれ以上審理を続けてもかかる資料が提出される見込もないことが明らかである。

そして、右のように古墳の原形もしくは掘削直前の形態が明らかでない以上、その掘削直前の形態の復原があり得ないことは、まことに理の当然であるから、これが可能であることを前提とする控訴人の右主張は、そのままでは、すでに他の点について判断するまでもなく、理由がないものというほかない。

もっとも、控訴人が当審において主張する古墳の復原に要する費用の中には、控訴人が原審においてなした山砂利搬出による損害の填補が含まれることは理の当然であり、後者は前者の一部をなす関係にあるから、控訴人が当審においてなした訴変更は山砂利搬出による損害の賠償請求(金一六万円及びこれに対する遅延損害金の請求)を維持したうえ、これを復原費用一五〇〇万円及びこれに対する遅延損害金との差額につき請求を拡張したものと解するのを相当とするので、以下右山砂利搬出による損害の点について検討する。

三  山砂利搬出による損害の賠償請求のうち、被控訴人佐藤につき原判決が認容した部分については、不服の申立がないから、その当否を判断する限りではなく、原判決が認容しなかった部分については、搬出された土砂の価格が原判決認定の限度を超えるものであることについて全証拠によってもこれを認めがたく、被控訴人金谷についていえば、被控訴人佐藤が控訴人所有地の土砂を掘削したことについて被控訴人金谷が故意又は過失があったことについて、これを認めるに足りる証拠がないので、いずれもこれを認容することができない。

四  よって、控訴人の被控訴人佐藤に対する本訴請求は、同被控訴人に対し、右の七五〇〇円及びこれに対する本件不法行為後であることが明らかな昭和四六年二月二五日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべきものであるが、その余の請求並びに被控訴人金谷に対する本訴請求は、いずれも理由がないから、控訴人の本件控訴並びに当審において拡張された請求を棄却することとし、民訴法九五条、九二条、一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川義夫 裁判官 寺澤光子 原島克己)

〈以下省略〉

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